観覧車(かんらんしゃ、英語: Ferris wheel)は、大きな車輪状のフレームの周囲にゴンドラを取り付け、人を乗せて低速で回転させることで、高所からの眺望を楽しめるようにした乗り物。
歴史
観覧車の原形は、18世紀初めモスクワに登場したロシア帝国貴族の遊具であり、あらかじめ車軸に巻き付けてあったロープを人力で引っ張るものであった。さらに17世紀には、木製の大きな輪から垂らした鎖に人が乗って、この輪を人力で回すという遊具がオスマン帝国領のブルガリアにあったことが、西欧からの旅行者などの記録に残っている。
現在のモーター駆動による機械式の観覧車は、1893年にアメリカ合衆国の技師ジョージ・ワシントン・ゲイル・フェリス・ジュニアにより開発されたものであり(観覧車の英名「フェリス・ウィール」は彼の名にちなむ)、シカゴで開催されたシカゴ万国博覧会 (World Columbian Exposition) のアトラクションの1つとして建設された。これはパリのエッフェル塔に対抗して作られたものであり、直径75.5m、2,160人乗りと当時としては巨大なものだった。1995年に再建されたシカゴNavy Pierの観覧車は直径も42mと小さなものになっている。
モーター駆動式は長らくホイールの中心軸にモーターを仕込んだものであったが、この機構は振動や強度の問題から観覧車の大型化の足かせになっていた。巨大観覧車の建設の嚆矢となったのはホイールに取り付けたガイドレールをタイヤローラーで挟み、そのタイヤを回転させてホイールを回すタイヤ駆動式の開発であった。タイヤ駆動式は静穏性がそれまでの駆動方式よりも優れ、中心軸に掛けてもいい負荷が多くなり、理論上は形状が変化するベルトを使用する観覧車も製作できる。
世界最大の観覧車の変遷
*数値は全高(車輪の直径ではない)
- 1893年:フェリスによる元祖の観覧車(80.4m、アメリカ イリノイ州 シカゴ)は、シカゴ万国博覧会のために建設された。1904年にセントルイス万国博覧会のためにミズーリ州 セントルイスへ移転され、1906年に解体された。
- 1895年:グレート・ホイール(94m、イギリス ロンドン)は、1894年に着工し1895年7月17日に開業した。1906年まで営業し、1907年に解体された。延べ250万人以上が利用した。
- 1900年:グランド・ルー・ド・パリ(100m、フランス パリ)は、パリ万国博覧会のために建設された。1920年に解体されたが、全高100mの記録は1989年まで破られなかった。
- 1920年以降、現役で世界一の高さとなった観覧車
- 1920年:大観覧車 (ウィーン)(高64.75m、オーストリア ウィーン)
- 1984年:姫路セントラルパークのジャイアントピーター(85.0m、姫路市)
- 1985年:つくば科学博覧会のコズミック・スペース(85m、現在のつくば市)
- 1989年3月17日 - アジア太平洋博覧会の観覧車(105m、福岡市)が登場、「Grande Roue de Paris」の記録を塗り替えた。
- 1989年3月25日:横浜博覧会のコスモクロック21(107.5m、横浜市)。
- 1992年:びわ湖タワーのイーゴス108(108m、大津市)。
- 1997年7月12日:天保山大観覧車(112.5m、大阪市)。
- 1999年:パレットタウン大観覧車(115m、江東区)
- 2000年:ロンドン・アイ(135m、イギリス ロンドン)。1999年12月31日運転開始、2000年3月開業。
- 2006年:南昌之星(160m、中国 江西省 南昌)
- 2008年:シンガポール・フライヤー(165m、シンガポール)。2月11日に初運転、3月1日に開業。
- 2014年:ハイ・ローラー(168m、アメリカ ネバダ州 ラスベガス)。2014年3月31日開業。
- 2021年:アイン・ドバイ(250m、アラブ首長国連邦 ドバイ)。2021年10月21日開業。現在で世界最大の観覧車。
世界の観覧車
*歴代で高さ世界一となったものは水色の背景
*かつ高さ世界一でも移転したのものは緑色の背景
日本の観覧車
歴史
日本の観覧車の歴史では1907年(明治40年)4月、東京・上野で開催された東京勧業博覧会のものが有名である。これが日本初の観覧車とされていたが、福井優子の研究により、1年前の1906年5月に大阪・天王寺公園で開催された日露戦争戦捷紀念博覧会で観覧車が設置されていたことが確認された。その後の調査でさらに、天王寺の観覧車(蒸気動力で動き、直径15メートル、ゴンドラ14個を設置)は、1か月半で解体され、翌年、上野の東京勧業博覧会に移設されたことが判明した。この博覧会では大阪から移設された1台に加え、電動式観覧車1台も設置されていた。
日本では明治末期の1906年~1911年、上記を含む5基の観覧車が設置された。かつて、これらは全て輸入されたと見られていたが、福井は全基が国産だった可能性が高いとの見解を示している。理由としては、1907年7月の『東京日日新聞』に、観覧車を製造した石川島造船所と営業人の間での訴訟を伝える記事が掲載されていること、1910年に福岡市で開催された共進会を図柄とした絵葉書で、観覧車の支柱に「若松徳永鉄工所製造」という文字があること、ゴンドラ内に椅子がない構造が5基に共通していることを挙げている。
イルミネーション点灯機能を備えた観覧車は、神戸ハーバーランド・モザイクガーデンの「ワンダーホイール(1995年)」が世界初である。現在この機能は多くの大口径観覧車に搭載されるようになった。
世界初のビル一体型の観覧車が登場したのは1998年、大阪の「HEP FIVE」であり、10階建ビルの7階が乗り場になっており、ビル屋上を越えて最高点(106m)に達する。他に横浜モザイクモール(最高点75m)、アミュプラザ鹿児島(最高点91m)、みらい長崎ココウォーク(最高点70m)にも同じタイプの観覧車が存在する。
2024年の時点で、営業している観覧車で日本最大のものは、2016年に開業した大阪府のEXPOCITY内にある「REDHORSE OSAKA WHEEL」(高123m)である。
日本最大の観覧車の変遷
- 1981年3月20日 - 神戸ポートアイランド博覧会(通称ポートピア'81)に「ジャイアントホイール」(高63.5m、径61m)が完成し、現役で世界最大となる。
- 1984年3月 - 姫路セントラルパーク「ジャイアントピーター」(高85.0m、径82.5m)が完成。
- 1985年3月17日 - 国際科学技術博覧会(通称科学万博、つくば'85)に「コズミック・スペース」(高85m、径82.5m)が完成(閉幕後エキスポランドに移設)。
- 1989年3月17日 - 福岡市で開催されたアジア太平洋博覧会(通称:よかトピア)に、かつてパリにあった「Grande Roue de Paris」を上回る、世界最大の観覧車(高105m、径100m)が完成(閉幕後遊園地「グリーンランド」に移設)。
- 1989年3月25日 - 横浜博覧会(通称:横浜博、YES'89)に「コスモクロック21」(高107.5m、径100m)が完成。直径はアジア太平洋博覧会の観覧車と同一。
- 1992年4月26日 - 滋賀県大津市のびわ湖タワーに「イーゴス108」(高108m、径100m)が開業。
- 1997年7月12日 - 大阪市港区の天保山ハーバービレッジに「天保山大観覧車」(高112.5m、径100m)が開業。
- 1999年3月18日 - 横浜市中区の「コスモクロック21」が移設され、その際に台座を高くされて全高が112.5mとなり、高さ、直径ともに天保山大観覧車と並ぶ。
- 1999年3月19日 - 東京・お台場のパレットタウンに「パレットタウン大観覧車」(高115m、径100m)が開業。
- 1999年12月31日 - イギリスのロンドンに「ロンドン・アイ」(高135m、径135m)が開業し、これ以後、"世界最大の観覧車"のタイトルは海外に移る。
- 2001年3月17日 - 東京・葛西臨海公園に「ダイヤと花の大観覧車」(高117m、径111m)が開業。
- 2001年12月15日 - 福岡市のエバーグリーンマリノアに「Sky Dream Fukuoka」(高120m、径112m)が開業。
- 2009年9月26日 - 「Sky Dream Fukuoka」が営業終了。日本最大の観覧車は「ダイヤと花の大観覧車」に戻る。
- 2016年7月1日 - 大阪府のEXPOCITY(エキスポシティ)内に「REDHORSE OSAKA WHEEL」(高さ123m)が開業。日本最大の観覧車の記録を更新。
日本の主な観覧車の一覧
営業終了または休止中の観覧車
日本以外の主な観覧車
ヨーロッパ
- イギリス
- ロンドン・アイ(径135m)
- ヨーロッパで最も高い観覧車。
- ロンドン・アイ(径135m)
- オーストリア
- ウィーン・プラーター公園大観覧車(高64.75m、径60.96m)
- 現存する世界最古の観覧車。映画「第三の男」に登場したことで有名。1920年から1985年まで現役世界一。
- ウィーン・プラーター公園大観覧車(高64.75m、径60.96m)
北米
- アメリカ合衆国
- ハイ・ローラー(高168m、径160m)
- 全高・直径ともに世界第二位かつアメリカ合衆国最大。
- コニーアイランド・ワンダーホイール(高45.7m)、直径140フィート(約42.7m))
- 可動式のゴンドラを持つ。
- ハイ・ローラー(高168m、径160m)
アジア
- 中国
- 江西省南昌・南昌之星 (高160m)
- 世界第三位。
- 江西省南昌・南昌之星 (高160m)
- シンガポール
- シンガポール・フライヤー(高165m)
- 世界第三位。
- シンガポール・フライヤー(高165m)
- アラブ首長国連邦
- アイン・ドバイ(高250m)
- 世界第一位。
- アイン・ドバイ(高250m)
オセアニア
- オーストラリア
- メルボルン・メルボルン・スター
- 南半球最大。サザン・スターから改称。
- メルボルン・メルボルン・スター
主なメーカー
- 泉陽興業
- サノヤス・ヒシノ明昌
参考文献
- 福井優子『観覧車物語―110年の歴史をめぐる』 平凡社、2005年。ISBN 978-4582832518
- 福井優子『ニッポンの観覧車』 イカロス出版、2009年。ISBN 978-4-86320-215-3
脚注・出典
外部リンク
- Ferris Wheel Global Project (FWGP)
- Pieces



